家族信託とは?その仕組みとメリット
家族信託は、不動産の相続に不安がある場合など、さまざまな場面で活用される仕組みです。家族信託にはどのようなメリットがあるのか、注意点とともに詳しく確認しましょう。
家族信託とは
不動産の「家族信託」とは、自宅やアパートなどを家族や親族に信託することです。
自分の死後、相続人以外の親族に不動産の管理を任せたい場合など、さまざまな場面で活用されます。家族信託とは何なのか、詳しく見てみましょう。
不動産の「信託」の基本
まずは不動産の「信託」の基本として、信託銀行や信託会社などに不動産を信託する場合について理解しておきましょう。
「信託」とは、自分の財産を第三者に託して管理・運用してもらうことです。信託することで、自分が不動産を管理・運用する手間が不要になるといったメリットがあるため、信託会社などに不動産を信託することを選ぶ人がいます。
信託すると、不動産の名義人は信託会社になり、管理・運用や処分をする権利も信託会社に移動します。ですが、賃料などの収入を得る権利は、自分のままです。
信託会社に対しては、契約で定めた報酬を支払うことになります。固定資産税などの費用についても、賃料収入を得る人が支払うのが基本なので、自分が負担することになります。
この場合、信託会社に土地を託した側を「委託者」、信託会社を「受託者」、賃料などの収益を得る人を「受益者」と呼ぶことを覚えておきましょう。
「家族信託」の仕組み
家族信託とは、信託会社ではなく家族や親族などに信託することです。ここでは特に自宅やアパートなどの不動産を家族信託する場合について解説します。
家族信託の仕組みは、信託会社などに信託する場合と基本的に同じで、信託会社を家族に入れ替えただけです。信託する相手は、同居している家族だけでなく、同居していない親族など、さまざまなパターンがあります。
信託すると不動産の名義人は家族になり、管理・運用や処分をする権利がその家族に移動します。賃料などの収入を得る権利のある「受益者」は、自分のままにすることも可能ですが、他の人に指定も可能です。家族信託の場合でも、受益者が固定資産税や管理費用などを支払うことになります。
また、家族信託は「民事信託」とも呼ばれ、信託会社などに信託することを「商事信託」といいます。
家族信託のメリット
家族信託には、どのようなメリットがあるのでしょうか。基本的なメリットを把握することで、どのような場面で活用できるのかが分かるはずです。
二次相続以降にも備えられる
家族信託は「遺言のような役割を果たす」というメリットがあります。
不動産を相続する人を指定したい場合、「遺言書」を使うことがありますが、遺言書は自分が死んだときにどうするかという「一次相続」の指定しかできません。しかし、家族信託なら、相続した人が亡くなったときの「二次相続」以降についても、誰に引き続ぐかを指定できます。
当面の一次相続までは問題ないとしても、二次相続以降のことを考えると、「自分の意に反する人」に不動産が相続されてしまう可能性が高くなるものです。
例えば「息子の嫁に相続するのは嫌だ」など、二次相続以降についてこだわりがあり、あらかじめ指定しておきたいニーズがある場合に、家族信託を活用できます。
自分の死後でも、管理する人を指定できる
家族信託は、自分が死亡した後に「不動産を管理してくれる人」を指定できるのがメリットです。
自分の子どもが障がいを持っていたり、ニートや引きこもりになっていたりなど、不動産を相続させても管理できるかどうかを不安に感じる場合があります。あるいは配偶者が認知症になってしまった、もしくはその可能性がある場合など、相続にあたり不安を抱くケースは多数あるでしょう。
そのような場合に、自分の死後でもしっかり「不動産を管理してくれる人」を指定するために、家族信託が利用できます。
信頼できる家族を「受託者」、子どもなどの相続人を「受益者」として指定することで、不動産を管理する人を決め、残された人に賃料収入などの利益が得られるように契約で取り決められるのです。
受託者を若くて信頼できる親族などに指定することで、長期間にわたって不動産を管理してくれる人が定まります。このように、子どもや配偶者などの残された人に不動産からの収入をきちんと届けるために、家族信託が利用できるのです。
不動産の共有問題の対策になる
マンションやアパートなどの不動産を、複数人で「共有名義」にしている場合、将来的にトラブルが発生するリスクがあり、家族信託はそれを回避するために利用されることもあります。
共有名義とは、アパートの部屋ごとに所有権を分けている場合などです。例えば1つのアパートを、子どもたち全員で分割して相続した場合、共有名義になっていることがあります。
共有名義の物件は、処分する際に「名義人全員の同意」が必要になるなど、管理上の不便が発生することがあり、いわゆる「塩漬け」の状態を招く原因にもなります。
現在は名義人の全員が協力的に管理しているとしても、将来的に相続が発生するなどして名義人が変わり、トラブルにつながる可能性もあるのです。
こういうケースで家族信託を利用すれば、管理・運用をする権限を1人の人間に集約できます。処分などの判断がしやすくなり、相続によるトラブルの回避にもなるのです。
家族信託の注意点
家族信託は、間違った使い方をしないように注意しましょう。どのような使い方に注意すべきか、具体的に解説します。
節税対策としては使えない
基本的に、「節税対策」として家族信託を使えないと考えましょう。
例えば不動産取得税と贈与税についてです。不動産を誰かに売ったり、贈与したりする場合、相手に不動産取得税や贈与税などが課税されます。家族信託では、自分を受益者にする場合には、信託する相手にこれらの税金がかかりません。
しかし、このような税金を逃れるためだけに家族信託を利用すると、税務署の調査によって「税金逃れ」とみなされ、「実質の贈与」であるとみなされてしまうリスクがあります。
そうなってしまうと、贈与税などを課税され、追徴課税などの可能性もあります。家族信託は、前述の二次相続対策など、一般的な活用方法だけに留めるようにしましょう。
差し押さえ対策としては要注意
家族信託は、「差し押さえの対策」として勧められることがありますが、この場合も要注意です。
家族信託には「倒産隔離機能」があり、財産の差し押さえの対策になるとされています。多額の借金をかかえるなどして破産すると、財産が差し押さえられますが、信託した財産は、差し押さえの対象外になるのです。また、「委託者」だけでなく、信託した「受託者」が破産しても、差し押さえられません。
しかし、賃料収入などを得る権利である「受益権」は、差し押さえの対象になってしまいます。つまり差し押さえ対策として家族信託を使うには、差し押さえられるリスクのない人を「受益者」にする必要があるのです。
また、破産する可能性が高い状態になってから家族信託の契約を交わすと、計画的に差し押さえを逃れたとみなされ、無効になることがあります。
他の制度で解決できる場合もある
「他の制度」の利用で問題を解決できる場面に家族信託を使用すると、税金逃れとみなされるケースがあります。他の制度を使う方が自然な場合には、無理に家族信託を使用しないようにしましょう。
例えば本人が認知症になるリスクに備えて、代わりに管理してもらう人を設定するために家族信託が勧められることがありますが、これは「任意後見制度」や「成年後見制度」で解決できる可能性があります。
特に「任意後見制度」は、自分が認知症になる前でも後見人を指定し、財産の管理を任せられる制度です。家族信託を利用しなくても、任意後見人を指定すれば十分に対策できるかもしれません。
家族信託以外の方法もあることを把握し、専門家と相談したうえで、自分の状況に合った方法を選択するようにしましょう。




